どうやって高い音を出すか?

【Q】 高校でユーフォニウムをひいているんですけど・・・高い音を吹く時と低い音を吹くときに口の形が変わってしまうんです。口を変えたときはハイCまで出るのですが、同じ口のまま吹いた時は、高いFくらいがやっとです。今から変えるべきなのか、それともこのままでも別にいいのかいまいちわかりません。教えてもらえるとありがたいのですが・・・・。

【A】 おっと、今回は、モノホンの高校生からのご質問です(っつ〜ことは、今までのはヤラセかい!)。しっかし、スゴイね、ハイC出るんだ! ワタシは高校の時、出たかナァ。さて、さて、「今から変えるべきなのか、それともこのままでも別にいいのかいまいちわかりません」とのこと。ワタシもいまいち分かりません(こんな應へばっか(笑))。

 ただ、この頃、ふと思ふことがあります。「高い音を出したい! どういふ練習をしたら出るの?」って質問は非常に多いのに、「高い音を出したい! どういふCDを聽いたらいいの?」って質問は皆無・・・ そこで、質問自體が持つ秘密から取組んでみようと思ひます。まづは、全く逆に、「低い音」から行ってみます(笑)。

◆ その1 「低い音」

 ワタシが高校生の時、日本管打樂器コンクールの第一次豫選を聽きに行きました。戰後の日本で初めての、ユーフォニアムの(クリニックやキャンプではない)ソロコンクールだったのではないかと思ひます。今、その大會のパンフレットを見ますと、當時のプロ奏者、音大生、高校生が澤山出場してゐまして、音大生や高校生の中には、今やプロとして活動してゐる方々の名前も見受けられます。さうした強者揃ひの參加者の中に、米國から參加のL.マルドナードといふ人がゐました。みんな同じ課題曲で、「あ〜、飽きたナァ」と思ってゐた頃、その方が演奏を始めました。この時の感慨は、いろいろあるのですが、それはまた別のお話。またいつか別の機會にお話しすることにしませう。

 マルドナードさんが使用してゐた樂器は、ヤマハの321Sで、これには低音域の音程を補正するコンペンセイティングシステムもなく、トリガーも着いてゐませんでした。課題曲には、下のCが出てきます。それも伴奏が無くなって、シーンとした時に出てくる、長い伸ばしなのです。この音は非常に出しづらい。ところが、マルドナードさんは見事に下のCを演奏してゐました。他のどの奏者(勿論コンペの樂器を使ってゐる人は澤山ゐました)よりも、見事でした。この音を聽いてといふより、音樂の流れに沿って、スムーズにCを出してゐたことに、感銘を受けてゐたと言ふ方が正しいかも知れません。スゴイ奏者がゐるものだなぁ、と感動して家に歸りました。

◆ その2 「高い音」が心の中で鳴ってゐるかな?

 で、ある時、ナントカって名前の米國人トランペット奏者のインタヴュー記事を目にしました。「どうしたら、あんなハイトーンが出るんですか」といふ記者の質問に對する彼の應へは、かうでした。「やぁ、ベイベー! みんな、よくさう質問してくるんだけれど、さう質問してくる人の心の中では、ハイトーンが鳴ってゐるのかなあ、ロケンロー!(一部編集)」 ゴソッ! ワタシは目からコンタクトレンズが落ちる思ひでした。チューニングの時、合奏の時、よく言はれませんか? 「その音を思ひ浮かべて!」と。みんながそれを意識しないと、決して音程は合はないし、演奏にもなりませんよね。ところが、高い音となると「どうしたら出るか」、低い音になると「どの指でやればいいか」といふ問ひがすぐに出てきてしまって、その音を思ひ浮かべることを忘れてヒーヒー言ってしまふ譯ですね。音が高からうが低からうが、そんなことは奏者の都合であり、演奏を聽く方にしてみれば關係ありません。出しにくい音を出さうとするのですから、「吹き方」を氣にするといふのも勿論大事なのですが、そればかりにかかづらって、「この音を出したい」「かういふ風に演奏したい」っていふ思ひを、忘れてはゐないか、一寸それを確認して欲しいのですね。

◆ その4 では具體的にどうするか?

 ここまで來ると、一生懸命練習してゐる貴方には、質問の意味を考へ直すことが出來たと思ふのですね。大分回り道をしたみたいで、「そんなこと、言はれなくても分かってるよ!」と言ひたい方々。もうちょっと待って下さいね(笑)。今日方法を聽いたからって、明日出來やうになるわけではないのですから、慌てない、慌てない。とは言ふものの、やはり「出さなきゃいけない!」といふ焦りもあるかも知れませんね。ワタシもまだ修行の身、「かうすれば吹けるよ」と言ふことは出來ません。でも、「かういふことに氣をつけるだけで、随分違って來るよ」と言ふことは出來ます。

・ユーフォニアムの素晴らしい演奏を聽く!

 ユーフォの生演奏を聽くのがまずは近道ですが、なかなか難しいですよね。でも、ワタシが子供の頃と違って、CDがうんじゃりでてます。別ページのお薦めCDでも參考にして、一枚くらゐはお小遣ひで買ってみませう。買ったら、勿體ないから一度くらゐは聽きませう。そしたら、そのたった一度でコンタクトが落っこちるやうな經驗をするかも知れない。若いんだから、出會ひは自分から求めませうね。年とって求めすぎるとみっともないですけどね(笑)。

 「あんな音が出るのは樂器のせゐだ」と思ふかも知れません。さう突っ込まれると思って、CDのお薦め口上には、各奏者の使用樂器も書いておきました。皆さんの使ってゐる樂器の大抵は使用されてゐますよ。どうだ、まいったか!(ワタシが威張ってどうする)

・能力がなければ吹けないぞ

 高い音、低い音も、自分の能力に拠ってゐます。能力のない人は、可哀相だが吹けない。これだけは、どうしやうもない。と言っても、今樂器を演奏してゐる人にとっては、そんなに特別なことではないと思ひます。そもそも、みんな、その能力を日々鍛えてゐるから、演奏が出來る譯です。吹くってのは、身體の筋肉を使ふのだから、大ざっぱに「運動」と言へます。非日常的で特殊な運動能力が必要とされる譯ですね。その能力は、先天的なものもあるだらうし、訓練によって培はれるものも大いにあると思ひます。

 ただ、大事なのは、「自分には才能がないから出來ない」って嘆く必要は全然ないといふ事です。大體ホントに自己の才能に嘆く人は、そんな嘆き方しないですよ。開き直りもしないし(笑)。毎日(毎回)、「このやうになりたい」といふ思ひを忘れず、その爲の能力を開發する訓練を續けられるか、どうか、これが一番大事なことではないでせうか。その努力が出來る人のことを、ゲェテ先生は「天才」と言ったのでした。「天才とは努力し得る才を言ふ」(ゲェテ) どうだ、たまには眞面目な話もするだらう(笑)。毎回やるってのは、本當に大變なことです。でも大變なことをやった人は、尊いと思ひます(自分だけではなく、他の人が大變な目に遭ってゐるといふことにも、敏感に感じられるやうになるのだと思ひますから)。さう、惱んでゐる貴方には、「高い音」「低い音」を急に出す能力はなくても、「高い音」「低い音」が出るやうに努力する能力は、心の中に眠ってゐるかも知れないのですよ!

・本題の「口の形」

 さてさて、「高い音、低い音で口の形を變へて吹いてもいいのか?」 どうでせうねぇ。一口に變へると言っても、色々な變へ方がありますよね。口をつぼめたり、横に引っ張ったり、下唇を出したり(おい〜っす)、上唇を出したり(どぼ、保毛田ほぼおです)・・・ 問題なければ、今の吹き方のままで吹きたいけれども、誰かから、「口の形を變へて吹かない方がいい」と言はれて、惱んでしまったのかな? いづれにしても、變へずに吹ける人の演奏が「素晴らしい!」と思ったのであれば、變らないやうに氣をつけて練習してはどうでせう。變っても「素晴らしい!」と思ふ演奏を體驗したのであれば、口の形をあんまり氣にし過ぎないで、「素晴らしい!」っていふ音のイメージを求めて眞似してみませう。尤も、どんなに練習しても口や唇が疲れ切ってしまふやうでは、「運動能力」の限界かも知れませんので、その時は、手段を變へてみなくては、元も子もないやね(笑)。

・ほんぢゃ、どうやって練習するか?

 具體的な訓練の仕方は、經驗ある人に訊くのが一番。とにかく言はれるままにやってみませう。それで駄目だったら、「おい!言った通りにやったのに、どうしてくれるんだ!」と怒鳴り込めるくらゐに、まづはやってみることでせうね。あれこれ考へてゐても、迷ふばっかり。大事なことは、何度も言ふけれど、自分の中に「出したい音」「やってみたい演奏」があるのかどうか。それは、あぐらをかいて「う〜ん・・・」と考へても、分からないでせう。ごく素直に、「ああ、なんていい演奏なんだ! みんなにも聽かせたいナァ」っていふ體驗をすることで、判明して行くのではないでせうか。それがあれば、もしかしたら非常な訓練の結果、口がひん曲がっても、素晴らしい演奏をするかも知れない。なければ、たとへ高い音が出たとしても、口が壊れるだけかも知れない。

 質問に「ユーフォニウムをひいている」と書いてあったところ、普通は「吹いてゐる」と言ひさうなものです。でも、「ひいている」と書いてあった。ピアノとかギターとかヴァイオリンとか、みんな「ひいてゐる」だよね。なんで管樂器は「吹いてゐる」、打樂器は「叩いてゐる」って言ふ人が多いんだらう? 「ピアノを叩いてゐる」って言ったら、ちょっと謙遜してゐるか、自堕落な風を装ってゐる感じがあるのに・・・。ユーフォを「ひいてゐる」ってのは、國語としては間違った使ひ方かも知れないけれど、單に吹いてゐるだけではないといふ思ひ入れが感じられるんだなぁ。好きだよ、さういふ人(ちゅっ!)。え!?ただの間違ひだった? 樂器より先に國語の勉強せんか〜! それぢゃ、ラヴレター書けないぞ(笑)。

【その他】

 ご參考までに、ワタシは、ロングトーンによるスケールで、地道に低音と高音を練習してゐます。チューニングのBbみたいに樂に演奏出來るやうになりたいので。先生が「はい、ベードア八拍ずつ!」ってのと同じパターン。でも、きついから、高い音では(Fドアあたりから)テンポは速め(四分音符180くらゐ)にしてます。で、テンポの中で息を「ハッ」と勢ひ良く吸ってます。やってて氣付きましたが、吸ふのもテンポのうちみたいです。これをやっていくと、ハイトーンが奇麗に出るやうになってきます。そして、それまで氣にしなかったハイトーンの音程や、合奏時のタイミングなどが、よりシビアに感じられてくるやうになります。やうやく使ひ物になってきたといふことでせうかね。樂器をウィルソンからベッソンへと變へたら、また仕切直しになりました。再び初心に返って練習をしてゐます。まだまだ道遠しですが、愉しいですよ! お互ひ、いい演奏が出來るやうに、頑張りませうね!