最近入手したユーフォニアムです。シリアル番號から推定するに、1930年製作のモデル。4ヴァルヴ・コンペンセイティングシステムで、現在のベッソン・ソヴェリン968の元になったモデルと考へられます。しかし、どうもよく分らない點がいくつかあります。かうしてレポートとして記録し、今後、判明した點を付記して行きながら、ユーフォニアムの歴史の一端を辿ってみたいと思ひます。
疑問その1 長い抜差し管
メインテューニング管が異常に長いですね(畫像01)。1930年當時は、みんなこんなに長かったのでせうか。確かに、この當時の Boosey & Co. のモデルには、メインテューニング管の長い物があったやうです。下の寫眞は、オークションに出てゐた1910年製のものです(畫像02)。共通する部品も使はれてゐますが、やはり、長いテューニング管が目立ってゐます。ただ、1930年製よりは、短いですね。
しかし、これとは別にオークションに出されてゐた1910年製モデル(畫像03)や、1925年製モデル(畫像04)は、それほど長くはありません。
畫像03
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畫像04
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1930年製のモデルの拡大畫像を見ると、抜差し管の稼働する部分が長いといふことに氣が付かれると思ひます(畫像01)。實は、この長い管を抜いて、現行のメインテューニングスライドを装着することが可能なのです。
ここからはワタシの想像なのですが、恐らく、1900年前後のイギリスにおいて、ピッチの高低についての標準を巡る論議があり、この時點では決着が着いてゐなかったのではないか、と。そこで、高くも低くもピッチを取れるやうに、長めの抜差し管と、短めの抜差し管との兩方が用意されて、奏者は、そのいづれか、または兩方を入手出來たのではないかと思ふのです。ちなみに、1930年製のモデルについては、すべての抜差し管に、長めものが装着されてゐます(畫像01b)。この時點でなほ、ピッチの問題が解決してゐなかったのか、はたまた、何らかの理由で、このモデルに古くて長い管を装着したのか、決定打はまだ出ません。
參考までに、オークションに登場した、1900年前後の Boosey & Co. のユーフォニアムを見ますと、殆どが、長いメインテューニング管を装備してゐることが判ります。畫像05は、1900年代の初期の製造とのことです。畫像06は、3ヴァルヴコンペで、製造年代は不明でした。
畫像05
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畫像06
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疑問その2 彫刻、サテン仕上げ、補修の謎
古い樂器には、随分手の込んだ彫刻が施してある場合が少なくありません。この1930年製モデルも、さうです。ところが、このモデルは、彫刻が手彫みたいなのです(畫像01c)。最初は、この當時はそれが普通なのだらうと思ってゐたのですが、これに近い年代の他のモデルを見ると、型で刻印してゐるやうなのです。畫像03bは1910年製、畫像04bは1925年製ですが、拡大畫像を見ると、やはり型で刻印した物のやうに見えます。また、1930年製の方は、彫刻が、マウスパイプ・レシーバーとベルとの圓いあて板の下に隠れてゐる部分がありますが、1925年製の方は、そんなことはありません。尤も、植物をモチーフにした外周の彫刻模樣も違ふのですが。
しかし、せっかく彫った彫刻を、むげにパーツの下に隠してしまふものでせうか。そして、年代の古い方が型を使った機械彫りで、ずっと新しい方が手彫(しかも、線が二重になったりしてゐる)といふのも、をかしな話です。
少しずつ解明していきたいと思ってゐます。