廣島の管樂器修理工房「de 管匠」さんを訪問しました!
民家の一階をぶち抜いたみたいな作業場(ホント、町工場って感じ)に、麦わら帽子のおっちゃんと、眼鏡かけたTシャツの痩せたおっちゃんがゐまして、なんとなく貫禄から麦わらの方が店の人だと思ったのですが、實は眼鏡のおっちゃんが、社長の竹山さんでした(笑)。
樂器を取り出して、普段から氣になってゐた所を相談。マウスパイプの息漏れ疑惑箇所は、白と判明し、續いてベルの歪みを見て貰ひました。いきなり、掌で、バシバシッとベルを叩き始めまして、ちょっとビックリ(笑)。「こりゃ、硬い。ビクともせん。ちょっと強引に直さなくちゃならんので、表のサテンが取れるかも知れんよ」とのこと。もうちょっと表面が汚れてから修理を考へようといふことになりました。竹山さんによれば、今のベッソンはもっとずっと柔らかいから、掌で強くバシバシッとやれば、難なく直せるのだとか。ま、俗に言ふ「オールド・ベッソン」とか「B&H」は、肉厚が全然違ふといふことなのですね。こりゃ、鳴りも違って來るはずだわ。
竹山さんと依頼者のアイデアあふれる作品を色々紹介して頂き、その度にのけぞりながら、話は「焼きなまし」に至ったのでした。樂器をオーブンに入れて、ある温度である時間焼いてゆっくり冷ますと、金属の分子が均等に配置し直されて、音が抜けるやうになる、といふものです。ついでに音程も良くなってしまふことがあるとか。「ワタシが自宅のオーブンに入れて出來るやうなものぢゃないですよね」と訊くと、「いや、ウチで使うちょるのは、普通の家庭用オーブンよ」とそれを指さされ、ひっくり返りさうになりました。「ぢゃけん、でかい樂器はそれぢゃできんよって、こっちの自作オーブンでやります。これ、ホームセンターで買うて來た斷熱板と、あと電熱線はリサイクルショップで買うて來た電氣ストーブを解體して使うちょるのね。安いもんよ」とのことで、もう二人で大笑ひ。さすがに、大きいオーブンでもユーフォやテューバは入らないので、抜き差し管のみを焼きなましするらしい。で、費用と時間を訪ねると、なんと「一回@$%*(%圓で、時間はq^&%時間」といふ、とんでもない話。どうやら今日は別に急ぎの仕事がないとのことで、もう、即決しましたよ(笑)。
なんでも、ご自宅が火事に遭はれて、この工房に寝泊まりしてゐるとか。「これをどっかに置かにゃぁ」と言って、レンジの上に置いてた布團をどけて、抜き差し管を次々に中へ。まだまだ入るよと言ふので、マウスピース2本とアダプターも入れて貰ひました。「クーラー付けとるとヒューズが飛ぶもんで」と言って、クーラーをストップ。200度まで計測出來る温度計を差し込んで、スイッチオン! 「あとは勘です」と言って、温度計をチラチラ。暑いところ恐縮です、と言ってワタシは一旦工房を出ました。
夜の廣島を闊歩して、工房に戻ると、竹山さんは「もう一杯やっとったよ」と酒を飲んでました。「まだ9時ぢゃけん、ちょっとくらゐ吹いてもええよ」と言ふので、抜き差し管を取り付けて吹いてみました。これがなんと! 格段に音があたりやすくなってまして、文章だとちょっと判りづらいかも知れませんが、男性的なたくましい音色になってゐました。そして、テューナーを見ましたら、強烈に高かった第6倍音のE♭や、第4倍音のGが・・・やっぱりやや高い(笑) しかしながら、以前は軽くテューナーの針を振り切らせてゐたのが、焼きなまし後は計測の範圍内にまで下がってをり、また以前とは比べものにならないくらゐ、矯正しやすくなってゐました。ホント、やってみて良かったです。
竹山さんは、實驗するのがおそるおそるだった(ある温度までいってしまふと、おシャカですからね)とか、熱処理の研究に取り組んだ音大生さんのお陰でいいデータを積み上げられたとか、この技術を編み出すまでの色々なお話を聽かせてくださり、ワタシは技術を生み出すに至る職人さんのねばり強さを感じさせられたのでした。「まぁ、うさんくさい加工法ですわ」と言って、竹山さんは笑ふのですが、「眞鍮をさんざん叩いて、押しつぶして、のばして樂器を組上げ、メッキされてしまった以上、あとから出來る加工といふのは、もう熱しかないと思うたんです」との直觀が、この技術を實現させてしまった譯です。現在は、ヤマハも高級機種にこの「焼きなまし」を採用してゐるさうですが、職人が自身の經驗と勘に基づいて生み出すものと、大工場にて徹底的にマニュアル管理されて造られるものとでは、質的に異なってくるのは致し方ないものだと思ひます。「マニュアル化する言うても、そりゃ無理ですわ・・・」と言ってゐた竹山さんの表情に、竹山さんの歴史(今なほ生み出され續けてゐる)が刻まれてゐるやうな感じがしました。
「de 管匠」は、この秋店名が「Rue」に變りまして、住所も變りました。行かれる方は、夕方以降を狙った方がいいです。徹夜仕事が多く、午前中は寝てゐることが多いとのことですので。また、配送を要する修理・加工は、一切受け付けてをりませんとのことでした。修理・加工をご希望の方は、樂器を直接工房へ持ち込み、受け取るしか方法がありません。くれぐれもご注意を!
管楽器修理工房 Rue(店名が變りました)
〒730−0046
広島市中区昭和町3−14
第2田中ビル601(6階)
TEL 082−244−3610
年中無休(不定期休らしいので、遠方の方はTELしてから行った方がいいかも)