フランスの大統領下の軍樂隊、パリ・ギャルド・レ・ピュブリケーヌ吹奏樂團(パリ共和國親衛隊吹奏樂團)では、ユーフォニアムを用ゐず、サクソルン・バスを使ひ續けてきた。ところが、數年前、ギャルドの新CDのジャケットを見て驚いた。なんと、隊員がユーフォニアムを使用してゐる! たうとうギャルドもグローバル・スタンダードへの道を余儀なくされてしまったのかと思ってゐた。
昨年(平成14年)秋にギャルド音樂隊が來日し、ワタシは初めてこの管樂オーケストラの演奏を聽きに行く事が出來た。17年前、LPにて、他ならぬF.シュミットの「ディオニュソスの祭」の、腰を抜かすやうな演奏に出會って以來、ギャルド音樂隊は、ワタシの中では世界一の吹奏樂團であった。その「ディオニュソスの祭」は、昔のギャルドのフランス式大編成で描かれてゐる。しかしギャルドは、前樂長のロジェ・ブートリー氏の樂隊改革により、大幅にその規模を縮小するに至り、「ディオニュソスの祭」は、レパートリーから外されてしまった。現樂長にフランソワ・ブーランジェ氏が就任してから、長いこと演奏されなかったこの曲が、ついにレパートリーに返咲いた(勿論現在の編成で出來るやうに編曲されてはゐるやうだが)。「ディオニュソスの祭」は、サクソルン・バリトン(以下バリトン)が2パート、そしてサクソルン・バス(以下バス)が6パートもある。これが果してどのやうな編成に置換へられるのか、どの樂器で演奏されるのか、樂しみであった。
開演前、早速ステージに寄ってみると、バスの擔當者のイスの脇には、樂器が6台ある。バスと、ユーフォニアムであった。バスは、コルトワ製であると思はれたが、一回轉してゐるはずのマウスパイプが、斜めにのびてゐるといふ新しいタイプであった! 上部の畫像(コルトワのページから拜借)、Courtois Saxhorn Basse 266、および今ご覧のこのページの背景が、その樂器である。畫像左側のCourtois Saxhorn Basse 166 と比べて頂きたい。通常のサクソルンバスでは、膝に樂器本體を置いての演奏が困難であったが、新しいタイプならそれが樂々可能である。またメインテューニングスライド(マウスパイプに直結してゐる)には、トリガーらしき物が見える。最早廃れた樂器と思ってゐたが、かういふ新機種が登場してゐるとは、恐れ入った。一方ユーフォニアムは、コルトワ、ベッソンのプレスティージュ、もう1台が不明。いづれも、4本ピストン・コンペンセイティング式である。
バス奏者4名のうち、1名はバスとユーフォニアムを抱へて來た。そして「ディオニュソスの祭」、全員がバスで演奏してゐた。バリトンのソロ部分も、バスが擔當。どうやら、バリトン2パート、バス2パートをバス4パートにして演奏してゐるやうだった。ワタシの席が前すぎて、あまりよく音が聽こえなかったのが殘念だった。續く長生淳の「英雄の時代」では、バス擔當者の全員がユーフォニアムを演奏。その後の「ラ・ヴァルス」「火の鳥」(素晴しかった!)、そしてアンコールまで、ずっとバスが使用されてゐた。
といふことで、樂譜にバリトン、バスが指定されてゐればバスで演奏し、ユーフォニアムが指定されてゐればユーフォニアムを演奏するといふ方針のやうな感じであった。傳統的なバスと共にユーフォニアムも演奏するといふ樂團の姿勢に、敬意を表したい。
1. コルトワの新しいサクソルン・バスの畫像は、コルトワのサイトから拜借した。
http://www.courtois-paris.com/panneaubrasssax.html
2. モデル266にの畫像に見られるトリガーは、形状や操作性からして、レバー操作の物ではなく、左手で抜いた管がバネで戻るやうに仕組みになってゐるのではないかと思ふ。
3. 昔の編成の「ディオニュソスの祭」は、初來日時の録音があるので、現在もCDで聽くことが出來る。ただし、これも來日にあたって、編成が縮小されてをり、フルパートで演奏されてゐる譯ではない。アルトは使用されてゐるが、バリトンパートはバスで演奏されてゐる。山の手資料館、藝術の部屋にある吹奏樂CDレヴューでも紹介してゐる。
4. 川越奏和奏友会吹奏楽団による「ディオニュソスの祭」をフル編成で演奏したCDが出てゐる。しかし、殘念ながら、バスパートはユニゾンが多いため、3パートに省略されてゐる。實に惜しい!
http://www.cafua.com/cacg0009.htm