ユーフォニアム(ユーフォニウム)の歴史 〜 ヴァルヴ以前の中低音金管樂器 〜

 

 ユーフォニアムの通史を始めるに當って、ヴァルヴが採用される以前に中低音域を担った金管樂器から採り上げたい。金管樂器の定義となると、またややこしいが、他の吹奏樂器とは明確に異なる、獨特の發音方法を用ゐる一群の樂器であることは確かだ。つまり、漏斗(じょうご)型のマウスピースを用ゐて、唇の振動を元として發音する樂器を金管樂器として、話を進めたい。また、これらの樂器については、辭典に文章として登場するものの、畫像が付されてをらず、勝手な想像をされることが多いため、出來る限り畫像を掲載したいと思ふ。さらにこれらの樂器の音色を聽きたい方への何らかの手だても紹介したいと思ふ。

 


 

 セルパン(Serpent:羅 1750年頃〜。*1
*3

メーカー不詳(16、17世紀頃)

 ヨーロッパの教會音樂や軍楽で、中低音域を担った金管樂器。蛇のやうな形状をしてゐることから、セルパン(フランス語で蛇の意)と呼ばれたといふ。この獨特の形状は、低い音を出すための長い管の処理であることには違ひないが、また、教會音樂のキャラクターとしての「蛇」の役割をも持ってゐたとする節もある。*2

 後年には、軍樂隊用の、ファゴット、バスーン型のセルパンも存在し、この形状が後のバスホルンやオフィクレイドに影響を與へたとも考へられる。

 音の切替は、唇のシラブルと、管體に開けられた音孔を指で塞ぐ、またはキイで音孔を開けることによる。音域によって、長さの違ふセルパンが存在してゐたことは事實であるが、樂曲に各音域のセルパンの指定があったかどうかは不明。

 現代も一部の演奏者により、古典からジャズまで用ゐられてゐる。

演奏を聽く!
Douglas Yeo Trombone Web Site から
http://www.yeodoug.com/articles/serpent/serpent.html


 バスホルン 又は イングリッシュ・バス・ホルン(Basshorn:獨 or English Bass Horn:英 1800年頃〜。恐らくは1790年代中盤からあった。*4
*6

Griesling & Schlott製 (Ger. Berlin)

 「ホルン」といふ言葉から、全然別の樂器イメージされやすいが、眞鍮製のV字型管體を持った金管樂器。セルパンと同じく、管體に開けられた音孔を指で塞ぐ、またはキイで音孔を開けることにより、音を切替える。

 イギリスの樂曲において指定されたオフィクレイドは、この樂器を意圖してゐたとする研究もある。*5


 オフィクレイド(Ophicleide:英 1821年〜 恐らくは1817年頃からあった。*7
*9

Gautrot製(Fra. Paris)

 セルパンの跡を繼いだ樂器の一つで、1821年にフランスのJ.アラリ(Halary - 本名 Jean Hilaire Aste, 1788-1861)がパリで特許を取得。真鍮製の縦型セルパン、又はキイビューグルのファゴット、バスーン型のやうに見える。

 音の切替は、唇のシラブルと、管體のキイ操作による。キイを押さない状態では、管は閉塞状態にあり、キイを押すことにより音孔が開く仕組み。音域によって、長さの違ふオフィクレイドが存在してゐたことは事實であるが、樂曲に各音域のオフィクレイドの指定があったかどうかは不明。

 オフィクレイドが登場した時代とヴァルヴ式樂器が登場した時代は、ほぼ同じであり、ドイツの樂器工房では「オフィクレイド」の名稱が避けられ、後述するヴァルヴ式の金管楽器と同じ「ボンバルドン Bonbardon」の名稱が使はれた。*8

 


*1. Guenter Dullat, "Fast vergessene Blasinstrumente aus zwei Jahrhunderten", P.116, Guenter Dullat, 1997.

*2. 佐伯 茂樹 「金管楽器ハンドブック 〜歴史編 金管楽器の歴史を知ろう」P.. 佐伯 茂樹 2006

*3. BERLIN MUSIKINSTRUMENTEN MUSEUM 所蔵品を撮影した繪葉書

*4. Guenter Dullat, "Fast vergessene Blasinstrumente aus zwei Jahrhunderten" P.44.

*5. 佐伯 茂樹 「金管楽器ハンドブック 〜歴史編 金管楽器の歴史を知ろう」P.. 佐伯 茂樹 2006

*6. Guenter Dullat, "Holtzblasinstrumente und Metallblasinstrumente auf Auktionen 1981-2002", P.178, Guenter Dullat, 2003.

*7. Guenter Dullat, "Fast vergessene Blasinstrumente aus zwei Jahrhunderten", P.86.

*8. Anthony Baines "BRASS INSTRUMENTS - Their History and Development" P.204, DOVER PUBLICATIONS, INC., 1993.

*9. Guenter Dullat, "Holtzblasinstrumente und Metallblasinstrumente auf Auktionen 1981-2002", P.178, Guenter Dullat, 2003.


 平成19年2月4日

Hidekazu Okayama
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