太管、中細管、細管

 

 ユーフォニアムといふ樂器には、通常「太管」「中細管」「細管」と呼ばれてゐるモデルがある。我國では、「太管」を吹きこなせる人が上手であるかのやうなイメージが、どうも強いやうだが、本當にさうなのだらうか。

 ヤマハに「YEP−321」といふ名器がある。マウスパイプのレシーバー(マウスピースを入れる部分)が細管レシーバーの樂器で、小學校、中學校、高校の吹奏樂部の備品として置かれてゐることが多い爲、結構ぞんざいな扱ひを受けてゐるやうである。この樂器のボアは、14.50mm。ちなみに、かのベッソンの最高機種のユーフォニアム「2051 プレスティージュ」は太管レシーバーで、ボアは14.75mm。兩者の違ひは、0.25mm。どのくらゐ違ふかと言ふと、どっちの1〜3番の抜差し管もお互ひにはまってしまふといふ程度の差でしかなかった(個體差があるので、無理に押し込まないやうに!)。その程度の違ひにも關らず、ヤマハ321は「細管」と呼ばれ、ベッソン2051プレスティージュは「太管」と呼ばれてゐる。(注:ベッソンがドイツで生産されるようになってからボアサイズが拡大され、現在は記載のサイズとは異なる)

 余談だが、かつてのベッソンは、中細管レシーバーであり、太管シャンク用のマウスピースが入らず、細管シャンク用のマウスピースが入り過ぎて固定出來なかった。1975年以降、ベッソンは太管レシーバーになったさうだが、本體のボアサイズは變更されてゐない。これまた最高機種として名高いウィルソンは、今も、太管レシーバーと中細管レシーバーの兩方のモデルを生産してゐる。勿論ボアサイズは所謂「太管」も「中細管」も同じである。さらに言うなら、ベッソンの場合もウィルソンの場合も、いずれもトロンボーンとは異なり、「太管」も「中細管」も、マウスパイプは同じものが使はれてゐるので、マウスパイプ内部のテーパーに違ひはない。

 アメリカのユーフォニアム奏者は、ウィルソンの「中細管」仕樣を使用してゐる人が案外多い。B.ボーマン、R.ベーレンド、M.A.クリーグ等々。なぜ彼らが「中細管」仕様を選んだのか、定かではないが、おそらくは、マウスピースの方のボアの拡がり方を意識したのではないかと思はれるのである。實はワタシも、ベッソンのニュースタンダード(太管レシーバー)を吹いてゐた時、マウスパイプのレシーバー部分を、わざわざ「中細」に付け替へたのである。太管シャンク用のマウスピースと、中細管シャンク用のマウスピースとでは、マウスピース内部のスロートの拡がり方が異なるモデル(シルキーやティルツ等)が多數存在するのである。その場合、當然、太管シャンク用のスロートの方が、中細管シャンク用のスロートよりも急激に拡がってゐることになるのだ。

 

左から、BB1TB(細管シャンク)、BB1EU(中細管シャンク)、BB1BT(太管シャンク)

 

 具體的に見てみると、ヤマハ321とベッソン2051プレスティージュとのボアの差は、僅かに0.25mm。ウィルソンの一番太いユーフォニアム(TA2910)ではどうかと言ふと、ボアは15.10mm(カタログには16.20mmとあるが、これはボアの内径ではない)であり、ヤマハ321と比べると、それでも0.60mmしか違ひはない。ワタシが使ってゐるのは、DEGのBB1といふものだが、終端の内径をノギスで計ってみると、「太管レシーバー用」が11.20mm、「中細管レシーバー用」が10.10mmであった。この短いマウスピースの中だけで、實に1.10mm も内径が違ふのである! この違ひが、演奏上のコントロールの差に、大きく繋がってゐるのではないかと思はれるのである。

 無論ボアサイズ自體の僅かな違ひによっても、樂器の操作性は變化する。しかし、その變化が大きいか、取るに足らないものかは、奏者自身や別の要因に拠るものでもあり得るといふことを、忘れない方が良いかと思ふ。そして、ユーフォニアムの場合、「太管」「中細管」「細管」といふ違ひは、單に、マウスパイプを固定させるレシーバの内径の違ひに過ぎぬことが殆どであり、それは樂器のボアの大きさを決定づけるものではなく、ましてや、樂器のランクを決定づける物ではないといふことは、案外知られてゐない。ボアサイズに對しての「太管」、マウスパイプのレシーバーの「太管」とは、一緒ではないのに、一口に語られてゐるのが現状である(これについては次項で觸れたい)

 一口に「やっぱりユーフォは太管でなくちゃ云々」とか言ってる先輩方は後を絶たないことであらうが、賢明なる讀者諸君には今一度この點を認識して頂きたいと思ふのである(な〜んてな(笑))

 

マウスピース DEG Brian Bowman Model 左BB1-BT(太管) 右BB1-EU(中細管)
マウスピース用各種アダプター 左から Tilz 中細→太、Tilz 細→ミラフォンシャンク(自分で加工した)、Bach 細→太、DEG 細→中細

 


1. 各社のユーフォニアムのボアサイズなどのスペックが知りたい方は、かとうさんのページに行くと、色々參考になる。
ゆーふぉ吹きのホームページ
http://www.euph.net/

2. パイパーズ平成14年3月号に、「細管、太管の樂器」について、村田陽一氏による興味深いレクチャーが掲載されてゐる。興味がある方は、下記HPからバックナンバーを取寄せるとよいかと思ふ。
パイパーズ ウェブサイト
http://www.pipers.co.jp/



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Hidekazu Okayama