鼎談:サクソルンバス その2

 

 

 3タイプのバス吹き比べ
 
岡 山  今日は普通に「バス」と呼ばれる5ヴァルヴモデルを持ってまいりましたので、是非吹き比べてみて下さい。それと、6ヴァルヴの所謂フレンチテューバもお持ちしました。
山 田  楽しみにしていました(笑)。あ、岡山さんも、どうぞコンペのバスを吹いてみて下さい。
岡 山  マウスピースは何をお使いなのですか?
山 田  結構悩んでいて、今はJKのEXCLUSIVE 5B です。フランスではコルトワのT2Sが一般的だったのでそれを使っていました。リムが平らで、ボアが細いですね。T2Sの「S」は、サクソルンの意味で、T2はトロンボーン用、T2Eがユーフォニアム用です。それぞれ少しずつ違うんですよ。
岡 山  フランスで、マウスピースも色々試してみました?
山 田  フランスには、マウスピースの在庫が多い店がないんですよ。どこへ行ってもT2Sです(笑)。JKはこっちへ戻ってから、ダクさんで試奏して買いました。沢山ある中から選べるというのは、有難いですね。
岡 山  楽器を買う時も選べないものなのですか?
山 田  楽器の方は、前もって連絡しておけば、メーカーから取寄せて貰ったり、店の奥から出してきて貰えるので、気に入った物を選ぶことが出来ます。
 
【CURTOIS BASSE 366 DUKE(4ヴァルヴ・コンペンセイティング)】
 
岡 山  サテンですね。ラッカーはかかっているのですか?
山 田  ええ、掛かっています。このモデル(コルトワ366)は、通称「デューク」と言うんです。
岡 山  賛美歌が流れてきそうなネーミングですね。後ろに立ったらチョップが飛んできたりしませんか(笑)。冗談はともかく、名前の由来はどういったことなのでしょう。
山 田  このモデルは「ジャズモデル」とも呼ばれているんですね。割とはっきりした音が出るので、ジャズに向いているということなのかも知れません。そういうところから想像して「デューク・エリントン」のデュークかなと思ったりしています。よくわからないのですけれども(笑)。
岡 山  コンペにはなっていますけれど、マウスパイプにテューニングスライドが付いているというスタイルは変らないのですね。
山 田  この辺が頑固なところなのかも知れません(笑)。音響的にも何かあるのだと思うのですが。あ、それからこのトリガーは、ご想像通り、親指で操作します。でも、どうもピッチが低めになるので、管を切って貰いました。
岡 山  DUKE は、やはりユーフォニアムよりもやや明るくてはっきりとした音ですね。いやぁ、持った感じは今までのどの楽器とも違って妙な感じです。腿というより股ぐらに置いて抱える感じです。ユーフォニアムに慣れていると、気合いが入りにくいですね(笑)。
山 田  フランスの人は、普段からあんまり気を入れて吹いているようには見えないですから(笑)。いつも飄々としていて、気合いを表に出しません。それに騙されてこちらも適当にやってしまうと、いつのまにか引き離されてしまうので、やっぱりどこかでちゃんと練習しているみたいです。
 
【COURTOIS BASSE 166(5ヴァルヴ)】 
 
山 田  ああ、これ懐かしいです。銀メッキは珍しいですね。見かけるのはラッカーばかりでした。入学して、しばらくこの楽器のラッカーモデルを吹いていました。やっぱりペダルトーンの抜けは、こっちの方がずっといいですね。こう演奏したいというイメージに近い音が出ます。ちょっと、勉強してたソロ吹いてみます(笑)。やっぱりいいですね。
岡 山  DUKE よりも、音の輪郭がはっきりしていますね。低音の抜けも確かによく聞こえます。
 
【COURTOIS BASSE 168(6ヴァルヴ、C管フレンチテューバ)】 
 
山 田  随分小さいんですね。ああ、しっかりした音で、とても吹き心地がいいです。
岡 山  166よりも、もっと溌剌とした音ですね。でも、品があって、しっかりした響きでよく通る音ですね。音量もかなり出ています。
山 田  これ、いいですね〜、発見でした。「明るくて太い音」ですね。いいなぁ、どこかに売ってませんか?(笑)
岡 山  中古を見つけたらすぐご連絡差し上げます(笑)。
 
※ そこへ 名古屋フィルハーモニーのトロンボーン奏者、田中宏史氏が乱入。興味深げに一通り吹いて、比べてみると随分違うものだ、と感慨深げに立ち去る。やはりフレンチテューバの「明るくて太い」音色が印象に残る。
 
 サクソルンの研究活動
 
岡 山  私はユーフォニアムについて細々と調べていますが、その発祥がどうもわかったようでわからないのです。例えばアドルフ・サクスが「ユーフォニアムを18**年に特許申請した」とかいう文献が出てくれば、随分楽なのですが… サクソルンについての研究論文等はあるのでしょうか。
山 田  フランスでは、パリ音楽大学のフィリップ・フリッチュ教授(Philippe Fritsch)が、その辺りを詳しく研究していました。また、アドルフ・サクスに関する本が出たばかりですので、ご紹介いたします。ここに何かヒントがあるかも知れません。

 題名    Adolphe Sax 1814-1894 Inventeur de genie
 著者    Jean-pierre Rorive
 出版社   Edition RACINE
 ISBN番号  2-87386-309-9

岡 山  それは、大変興味深いです。是非取り寄せたいと思います。
 
 これからの課題
 
岡 山  最後に、これからのバスについて思うところがありましたら、是非お聴かせ下さい。
山 田  ユーフォニアムやそれに近い楽器はどれも似たような音色ですから、日本人が、バスのような慣れない楽器にわざわざ取組んでも、音程やコントロールや運指に苦労するだけで、結局はあまり代わり映えはしないだろう、と思われやすいものだと思います。しかし私は、フランスに行って、バスを習いながら、フランスの曲はバスで演奏した方がしっくりきたのです。この経験を元に、私はそれぞれの楽器でアプローチをしていきたいと思っています。
岡 山  とても骨の折れることと拝察しますが、影ながら応援しております。山田さんのリサイタルの予定はないのですか?
山 田  7月13日にティアラこうとう小ホールで、サクソルンバス、ユーフォニアムのリサイタルを開催します。詳細が決まり次第またご連絡しますね。
岡 山  それは楽しみです。「結局ユーフォニアムと変らないじゃないか」と言われるのではないかという不安はありませんか?
山 田  私もユーフォニアムから始めましたので、正直に言いますとそれはやっぱりありますね(笑)。それで悩むこともありますが、やっぱり自分の経験を元にチャレンジして行きたいです。今日お話ししながら、また元気が出てきました!
岡 山  極端な言い方をするならば、バスでもユーフォニアムでも、お客さんにしてみれば、音楽が心地よく聴けるのであれば、どれでもいいのでしょうね。しかし、しっくりきたということは、その楽曲の演奏(自分の演奏でも、他人の演奏でも)に心を動かされたということでしょう。この感動を表現しない方がおかしいのかも知れません。ホルン奏者は1台の楽器でB管とF管を切替えて常にそういうことをやっているのでしょうから、ユーフォニアム奏者が2種類の楽器でそれをやっても、何もおかしい話ではないと思います。結局は自分の人生ですから、自分の直観に基づいて、自分で腹を括るしかないのですよね。でも、それだからこそ力が漲る。
山 田  ありがとうございます。これからも頑張ります! 今年の夏には、フランスのイズミエールという町で、「TUBALAND」バス、ユーフォニアム、テューバの為の国際アカデミーが開催されます。そこで、日本からのツアーコンダクターをやります(笑)。フリッチュ教授初め、ギャルドや空軍の奏者が勢揃いですので、本場のバスの演奏に触れる絶好の機会だと思います。
http://tubaland.free.fr/
岡 山  それも楽しみですね! 山田「伊津美」さんと「イズミ」エールというのも何か運命的な物があるのかも知れないですね(笑)。いや、人生、意外とそういうご縁で生きて行くものなのかもしれないですよ。

 本日は、ご体験に基づいた、大変貴重な、また興味深いお話を有難うございました。今後のご活躍を心よりお祈り申上げます。

 ところで、どうやらここは閉店のようですよ(笑)

山 田  うわ(笑)

 


2006年4月2日作成


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Hidekazu Okayama