特攻隊員の遺書


 數年前から、戰時中の若者、とりわけ特攻隊員の遺書を讀むやうになりました。

 「特攻隊員の命の声が聞こえる」(神坂次郎著 PHP研究所)、「今日われ生きてあり」(神坂次郎著 新潮文庫)、新版「きけ わだつみのこえ」(日本戦没学生記念会編 岩波文庫)を少しづつ讀んでをります。少しづつといふのには、譯があります。兵隊さんが家族や友人や戀人を案じ、勵まし、感謝し、いよいよ死を覺悟する、その文章を辿ってをりますと、涙がどんどん溢れ出てきて、讀むのを途中で止めざるを得なくなってしまふのです。

 これから、「昭和の遺書(全3巻)」(辺見じゅん編 角川文庫)、「収容所から来た遺書」(辺見じゅん著 文春文庫)「特攻」(森本忠夫 文藝春秋)なども、併せて讀まうと思ってゐます。出來るだけ、兵隊さんの書き遺した文章を讀んでいきたいと思ひます。ご推薦の書がありましたら、ご教示いただけると幸ひです。

 また、特攻隊を主題にしたビデオもいくつか觀ました。「君を忘れない」「Winds of God」「月光の夏」などです。


 「君を忘れない」は、特攻隊員の出撃までのドタバタ生活を辿った作品でした。ユニークな切口で、時に爆笑しながら、大泣きして觀てゐました。出撃を前にして面會に駆けつけた妻子を前に、ある隊員が「いいか、とうちゃんは神樣になるんだぞ、だからもうお前達を馬鹿にする奴はゐなくなるんだぞ」と語ってゐたのが心に殘りました。


 「Winds of God」は、現代の若者2人が戦火にタイムスリップした話です。辿り着いたのは特攻基地。2人ともこの隊にゐた隊員の身體に乗移ってしまったのです。明るく樂しい未來を夢見つつ、それを拒むものにはすぐさま抵抗しようとする現代の若者と、限られた選擇肢から特攻を志願し、自分以外の尊いもののために命を捧げる若き隊員とのぶつかり合ひが描かれてゐます。面會に訪れた戀人の「私は、あなたが特攻に志願したことを、誇りに思って、生きていきます」といふ言葉に、敗戰となることを知りつつも自ら志願して零戰に乗って飛立った現代の若者の姿が心に殘ってゐます。


 「月光の夏」は、元音樂學校の隊員が、出撃を前に基地を抜出して、小學校のピアノを借りて、渾身を込めて最期の音樂を奏でるといふお話でした。「明日死ぬことが分ってゐるといふのに、どういふお氣持で彈いていらっしゃるのだらうか。みんなよく聽いておくんだぞ」と言った校長先生の言葉が心に殘ってをります。隊員を送出すために生徒たちが歌った「海ゆかば」、素晴しかった。


 いづれの作品も、戰爭=惡といふテーマを押出さうとしてゐるのではなく、先人達は過酷な時代にあって、何を信じて、如何に死なうとしたのだらうか、そしてそれは、とりもなほさず、如何に生きようとしたかといふことと不可分なのではないだらうか、と若い世代から問うてゐる作品のやうに思ひます。レンタルビデオもあると思ひますので、是非御覧になってみて下さい。なほ、文中の科白は、私の印象によるもので、實際の科白とは異なるかも知れないことを予めお斷りしておきます。