第二章 『ドイツ國民に告ぐ』の成立

 一八〇七年から一八〇八年に掛けて行はれたフィヒテの講演に基づく『ドイツ國民に告ぐ』は、今も尚、讀む人の心を揺さぶる不朽の名著である。この章では、まづ、その講演の行はれた頃のドイツの情勢を振返つてみたいと思ふ。この時代の情勢、風潮に對して、フィヒテはどのやうに立向かつて行つたのか、それを知る事にもなるからである。そして「ドイツ國民に告ぐ」の講演が如何にして行はれたか、さらに國民にどのやうな影響を與へたのかを辿つてみたいと思ふ。